まず、虫歯の成因を考えると、

①細菌(歯垢)
②宿主(歯牙)
③食物(蔗糖)
④時間

の4つが広く言われていますが、最近の傾向として、

⑤体液(血液)循環
⑥噛み合わせ(力学的因子)

の2つが重要なものとして挙げることが出来ます。

 母乳は「ちち」、乳児は「ちのみご」と言われている様にその成分は、母親の血液と非常に類似しており、その血液は、食生活、住環境、心の想いにより造られています。炭酸飲料、牛乳など骨中のカルシウム分を遊離させる働きのものを多く摂取している母親の母乳は、乳児に対しても同じ働きを兼ね備えています。
 即ち上記の①②③に関しては、人工乳よりは母乳の方が優れいるものの母親の妊娠中、いや妊娠前からの生活習慣が、その中身を左右させるものになり、母乳により虫歯になるという危険性も、皆無ではない事に成ります。乳首を良く噛むので断乳したとか、歯が萌出し始めたから子供から離乳したなど、よく聞く話しですが、此等は親の勝手な言い訳にしか過ぎません。
 要は乳がまずいので子供が飲むことを拒否したという事です。命がけの子から親への訴えかけなのです。

 ④⑤⑥に関して哺乳という観点からお話致します。寝返りを打つ事さえ出来無い乳児にとって、此の哺乳という運動は、啼くという運動と共に非常に大切なもので有ります。汗をかきながら、口腔周囲筋を活動させながら、必死になって食らいついています。実際哺乳瓶の姿と比較すると、その運動量の違いは明確です。噛める様になるための筋力トレーニングが哺乳を通して行われているという事です。

 生後2ヶ月位迄は、哺乳時の顎の動きは上下的で、次第に前後、左右とより立体的になって行きます。下顎運動の訓練が、自然の状態で得られるため、仰向けで寝ていても、舌根が沈下し気管を塞ぎ、呼吸がしづらく成った時に反射的に乳首をくわえた状態が再現され、呼吸困難に陥る事を防止しています。そのため、睡眠中も口を閉じて鼻呼吸で過ごす事ができ、自浄作用、抗菌作用を兼ね備えた唾液により、口腔内が満たされています。口呼吸をする子と比較してみると、虫歯発生率には顕著な差を認めます。

 また乳首を包み込んでいる上顎骨の切歯乳頭は、全身の要である仙骨(腰部付近にある)と反射しており、哺乳そのものによりそこが刺激され、全身バランス調整が行われているという事が、最近の研究で分かってきました。大人の方でもご自分の親指の腹で、この切歯乳頭部(上顎の左右中切歯の間にある米粒状の襞)を20回位圧迫マッサージしてみて下さい。全身の血の巡りが良くなり、温かくなることが確認できると思います。

 全身のバランスが崩れ始めると、口腔内にもその歪みが現れ始め、乳歯列期に於いても噛み合わせに不安定が生じ、1本1本の歯牙に歪んだ力が与えられるようになります。此の事により、歯牙の中にある組織液の流れや歯根膜、歯随の中の血流が悪くなり、また硬組織そのものにも亀裂が生じ、その結果、虫歯が発生し易くなります。

 天から与えられたものには、未だ科学では解明しきれない奥深いものがあります。母乳の出る方も、残念ながら母乳の出難い方も、直ぐに人工乳に頼るのではなく、より自然に同調できうる環境づくりを模索してみては如何でしょうか?

母乳と虫歯の関係